《コラム12月号》意外と知られていない早朝高血圧


●近年下がってきている高血圧の基準

 血圧とは、心臓のポンプ作用により全身の血管に押し出された血液が、全身の血管壁に与える圧力のことです。心臓が収縮するときの血圧が最も高く、最高血圧(収縮期血圧)、心臓が拡張するときの血圧が最も低く、最低血圧(拡張期血圧)といいます。いわゆる「血圧の上」が最高血圧で「下」が最低血圧です。血圧の単位は水銀の高さによる圧力で表され、単位はmmHgとなります。

 高血圧は、心臓から送り出される血液の量が多かったり、血管壁が硬かったりしますと起こります。WHOにおける高血圧の定義は時代により異なりを呈し、近年はより厳しくなっています。1978年における基準は、最高血圧160以上、または最低血圧95以上が高血圧の診断基準でした。1999年の定義では、理想的には年齢を問わず、最高血圧を130未満、最低血圧を85未満に保つことが必要で、最高血圧が140以上、かつ、最低血圧が90以上の場合を高血圧としています。これらは病院で測定した血圧で、家庭で測定した場合は、最高血圧が135以上かつ、最低血圧が85以上なら高血圧とし治療の対象となり、最高血圧が125以下かつ最低血圧80以下を正常血圧としています。これは病院で血圧を測定しますと緊張感から血圧が上がることがあるからです。病院で測定すると高血圧で、家庭で測定すると正常な状態を白衣高血圧と呼んだりしています。

― 血圧の基準値の変遷 ―

1978年

分 類  収縮期血圧(血圧の上)     拡張期血圧(血圧の下)
正常血圧     140以下     かつ    90以下
境界域高血症     141〜159    または   91〜94
高血圧     160以上     または    95以上

1999年

分 類  収縮期血圧(血圧の上)     拡張期血圧(血圧の下)
至適血圧     120以下      かつ    80以下
正常血圧     130以下      かつ    85以下
正常高域血圧     130〜139     または   85〜89
軽症高血圧     140〜159     または   90〜99
中等症高血圧     160〜179     または   100〜109
重症高血圧     180以上     または    110以上
収縮期高血圧     140以上      かつ    90以上

               高血圧治療ガイドライン(日本高血圧学会)より引用

 高齢の方の場合は、上の表の基準と若干異なるようです。それは高齢者の場合は、血圧が高めの方が生命予後が良いことがあるからです。従って、高血圧症になっても厳密な降圧は行わず、個々の症例、合併症なども考慮してきめ細かい設定が必要であるとされています。

●早朝高血圧が注目されたのは最近
 近年、高血圧症の中で朝の高血圧が注目されています。これは早朝目覚め前後から、起床後数時間の朝の時間帯に、脳卒中、心筋梗塞、大動脈瘤の破裂や突然死などの心血管の病気が多発することから、この時間帯の高血圧が何か特別な意味をもつのではと考えられたことによります。また、病院などで高血圧と指摘された方に、家庭において朝、晩血圧を測定することを指示し、そこから朝の血圧情報が入手可能になったことが重要な要因とされています。家庭用自動血圧測定器が安価で性能がよくなり、マスコミ情報などから自発的に測定する方が増え、その結果「高血圧では?」と受診される例も増えていることもあります。

 かつては朝、起床直後安静を保った状態での血圧は、その方の行動時間帯の血圧としては最も低く安定していると考えられており、基礎血圧と呼ばれていました。しかし、上述したような情報が入手されることにより、実際には早朝起床直後の血圧は、決して低く安定したものではないということが分かってきました。特に高血圧症を有する方では、目覚めた直後に1日で1番高い血圧が測定されることもあります。このようなことから、家庭で測定した早朝血圧のレベルは、病院の外来において測定される血圧と比較して、脳、心臓、腎臓、すべての心血管リスクと密接に関連していることが知られてきました。

 このようなことから多くの医療機関で調査がすすめられ、そのうちの一つとして自治医科大学によれば、高血圧症で通院され降圧治療を受けられている方々に、早朝血圧レベルを測定してもらいそのコントロール状況を調査されました。それによれば、約60%程度の方で早朝の収縮期血圧値(最高血圧値)が基準値の135mmHg以上であり、コントロールができていない状況だったようです。さらに主治医の先生が外来時診察室にて最高血圧値が140mmHg未満で、コントロール良好と判断している方においても、その約半数以上が服薬前の早朝高血値が高値を示し、早朝血圧が隠れている仮面早朝高血圧の状態だったそうです。しかし、朝の高血圧が、心血管病の原因になるとするエビデンス(科学的根拠)は未だないようです。

 また、早朝高血圧の定義もあいまいでしたが、2004年に日本高血圧学会が治療ガイドラインを改定しました。その中で、早朝高血圧とは起床直後の朝の血圧が、昼間行動期や晩の血圧は正常範囲内なのに、高い状態と定義づけられています。朝の血圧を捉える最も厳密な方法は、24時間自由行動下血圧ですが、代わりに家庭で自己測定する「家庭血圧測定」が、最も一般的な方法とされています。

家庭では一般的に朝と晩に血圧を測定するように指示されますし、病院の外来でも測定されます。したがって、早朝高血圧とは朝の家庭血圧が高血圧の値で、病院の外来や晩の家庭血圧は正常範囲であるということになります。早朝高血圧は、朝の血圧を測定しない限り判明することはありません。

通常の診療では、発見されない隠れた高血圧ということで、仮面高血圧と呼ばれる病体の一部を形成しています。この早朝高血圧は病院の外来で血圧を測定すると高くなりやすいことから白衣高血圧と呼ばれる逆の現象で、逆白衣高血圧、白衣正常高血圧と呼ばれることもあります。

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●なぜ早朝に血圧が高くなるのか?

 体には血圧を調節するための多くの仕組みがあり、それを調節しているのは無意識下に体内の代謝などを調節する自律神経系の交感神経と腎臓です。交感神経は必要に応じて、いくつかの方法で一時的に血圧を上昇させます。すなわち、交感神経は副腎を刺激してエピネフリン(アドレナリン)とノルエピネフリン(ノルアドレナリン)というホルモンを放出させ、これらのホルモンが心臓を刺激し血圧が上昇します。また、腎臓も刺激し塩分と水分の排出量を減らし、血液量を増やし血圧が高くなります。腎臓から血圧を上昇させるホルモンが放出され血圧が高くなることもあります。

 高血圧の85〜90%は原因不明で一次性高血圧(本態性高血圧)と呼ばれ、特に異常がないのに血圧が高くなるものです。心臓と血管に生じたいくつかの変化が組み合わさって、血圧を上昇させると考えられていますが、原因は特定できません。ただ、危険因子は明らかにされており、食塩の摂り過ぎ、加齢による血管の老化、ストレス、過労、運動不足、肥満や遺伝的要因があります。原因の明らかな高血圧は二次性高血圧と呼ばれ、その多くは腎障害です。これは腎臓が血圧の調節に重要な器官ゆえです。外には、内分泌障害や経口避妊薬(ピル)などの特定の薬物使用が原因で起こります。

 血圧は安定したものではなく、正常な方でも1日のうち変動するもので、これを血圧日内変動性と呼んでいます。通常、血圧は夜になると交感神経の働きが弱まり低くなり、夜間睡眠時に低く安定しますが、朝、目覚めと同時に交感神経が活性化され血圧は急に上昇し、高血圧域に至ります。昼間行動期には再び朝の血圧レベルより低くなり、夕方にもう一度高くなるという日内変動を示します。早朝に血圧が上昇するのは、交感神経の働きによるもののほかに、体内時計に従って目が覚めるころ脳下垂体から副腎皮質ホルモン(コルチゾール)を分泌するように指令が出ます。コルチゾールはストレスホルモンとも呼ばれ、血管を収縮させ血圧を上げ、体を動きやすくする働きがあります。この働きは、寝覚めてすぐに動けるようにする生体防御の一つです。これらにことにより早朝の血圧は正常な方でも昼間より20ぐらい上昇するとされています。従って、高血圧症の方は早朝の最高血圧は160〜180mmHg程度となり、場合によれば200mmHgを越えることもあります。ただ、高血圧症の方は普段から高血圧に慣れていますので、早朝に血圧が上昇しても自覚症状がありません。

― 早朝高血圧のメカニズム ―
(1)目覚め 
(2)大脳の下垂体(体内時計)
交感神経が活化
副腎へ指令
ノルアドレナリン分泌
コルチゾール分泌
早朝の血圧上昇

 早朝高血圧の上述したタイプは高齢者の方に多く見られるものですが、疫学調査によれば、一般成人の場合は以下の2つのタイプが多く見られるそうです。一つは本来低くなるべき夜間の血圧が、ほとんど降下せずそのまま早朝を迎え、早朝にまた高血圧となるタイプ、もう一つは夜間の血圧が昼間血圧より高くなり、早朝にまた高血圧となるタイプです。これらのタイプの早朝高血圧症の予後が不良であることは、様々な研究から明らかになってきています。従って早朝高血圧のリスクは、異常な日内変動にあるといえます。

 もう一つの早朝高血圧の要因に、降圧治療そのものがあります。近年の降圧治療薬は長時間作用型の降圧薬による1日1回の服用が主流となっていますが、現在使われている薬の中には、24時間作用の持続しないものが多くあるからです。すなわち、ある降圧薬を24時間有効として、朝1回だけ服用していますと、病院の外来では薬が効いていて血圧が正常と測定されますが、24時間後の服薬直前の血圧は高くなっているということになります。

このことに対しては、中等度の薬効持続のある降圧薬を1日2回に分けて服用したり、確実に24時間有効な降圧薬の服用、寝る前に交感神経を抑制させる薬を服用するなどの方法が取られているようですので、降圧薬を服んでいても早朝の血圧の高い方は、一度主治医の先生に相談されるとよいでしょう。

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●危険な早朝高血圧

 血管の壁は本来弾力性がありますが、高血圧の状態が進みますと血管はいつも張りつめた状態におかれ、次第に硬くなっていき動脈硬化へと進んでいきます。動脈硬化状態になりますと、血管を守っている血管内皮細胞の働きに障害が生じ血管に傷がある状態になり、傷を治す働きのある血小板という細胞が活性化されます。この血小板は交感神経の活性化により分泌されるノルアドレナリンによっても活性化されます。血小板は血液を固める作用を持っています。従って、高血圧により動脈硬化状態になっていますと、血管が傷ついており、早朝高血圧で脈拍が早くなり血液量が増加しますと、さらに血管内部が傷つき、血小板の活性化が激しくなり、早朝の交感神経の活性により血小板もより活性化されます。これらの相乗効果により、血管の中で血液が非常に固まりやすくなり、脳卒中や心筋梗塞が発症するというわけです。

 早朝高血圧には、夜間血圧が降下しないタイプや夜間血圧が昼間血圧より上昇するタイプの群と、起床2時間前頃から血圧が上昇し、起床とともにさらに上昇するタイプの大きく2つのタイプがあり、それぞれが独立して心血管リスクになると考えられています。

 夜間高血圧型の早朝高血圧では、夜間血圧が昼間血圧より高いタイプにおいて、心血管リスクが最も高く、致死的脳卒中、脳出血や心臓突然死を発症する危険性が高いことが分かってきました。このタイプの早朝高血圧は、不十分な降圧治療、糖尿病、脳卒中後、心不全や睡眠時無呼吸症候群などの症状のある方に多くみられます。

 起床による早朝高血圧が心血管の病気の発症に関している可能性は示唆されていましたが、本当にリスクであるかどうかは、明確ではありませんでした。しかし、近年の研究でこのタイプの早朝高血圧が、無症候性脳梗塞と関連し脳卒中のリスクであったり、心臓の左室肥大リスクがあることがはっきりしてきました。

 このように早朝には、血圧のみならず多くの心血管リスク因子が憎悪することから、降圧による心血管の病気予防は大きいと考えられています。

― 早朝高血圧の脳卒中に対するリスク表 ―
早朝高血のタイプ
脳卒中リスク
ME平均135mmHg未満 ME差20mmHg以上
1倍
ME平均135mmHg以上 ME差20mmHg未満
2倍
ME平均135mmHg未満 ME差20mmHg以上
6.6倍

ME平均 朝と晩の最高血圧の平均

ME差 朝と晩の最高血圧の差

コントロール群 ME平均135mmHg未満、ME差20mmHg未満の白衣高血圧群、この群の脳卒中リスクを1とした。
(自治医科大学の研究より引用)

                       

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●大切な家庭での血圧測定

 早朝高血圧の診断には、朝、患者様自身が家庭血圧計で測った血圧(家庭血圧)の記録が必要となります。もちろん毎日測定するのが望ましいとされていますが、必ずしも毎日でなければ意味がないというわけでもありませんので、あまり神経質にならず気軽に測定することが大切です。早朝血圧の記録は1〜2週間分程度あれば、その方の血圧のだいたいの動きが分かります。また、家庭血圧計は上腕で測る血圧計がよいとされています。日本高血圧学会では家庭血圧測定のポイントを以下のように示しています。

 ― 家庭血圧測定のポイント ―

  

1) 朝と晩の1日2回の測定

  起床後1時間以内と夜寝る直前にできるだけ同じ時刻に測定する.

2) 朝は排尿を済ませ、朝食や薬を服む前に測る.

3) 1〜2分椅子に座って静かに測る.

4) 朝と夜、血圧測定時には少なくともそれぞれ1回血圧を測定.

5) 測定した血圧は全て記録する.


 早朝高血圧の基準値は、上(収縮期血圧)が135mmHg以下、下(拡張期血圧)が85mmHg以上です。これだけではあまり高い血圧ではないと感じられますが、一般に家庭血圧は病院の外来で測定する血圧より低くなるからです。収縮期血圧135mmHg以上か未満で脳卒中リスクが大きく変化することからも、上135mmHgという基準値は大切な値となることが理解できると思います。

 ― 早朝高血圧の目安 ―

上の血圧(収縮期血圧)
下の血圧(拡張期血圧)
135mmHg 
85mmHg

正常家庭血圧   上125/下80mmHg 未満

 早朝高血圧は薬で治療できますので、家庭血圧を測定し早朝高血圧が疑われた場合は、血圧を記録したノートを持って主治医の先生に早めに相談されるのがよいでしょう。

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●日常生活で注意すること

 早朝高血圧の患者様が、特に注意する必要があるのは、「起床の仕方」です。

朝、目覚めと同時に起きだしますと、交感神経が急激に活性化し血圧が上昇しますので、目覚めて10分間位は安静にして起き出すのがよいとされています。起床後もなるべく余裕をもって行動することが大切です。時間がないとセカセカと行動すると、交感神経が活性化されるからです。また、急激な温度変化も血圧が上がります。これからの寒い時期は、起床後に「寒い」と感じないように、起きたらすぐに暖かい上着を着る、タイマーで暖房をセットするなどの工夫が大切になります。

 高血圧の原因としては、遺伝因子と生活環境因子があります。遺伝因子がある方はない方より生活環境に注意する必要がありますので、御家族に高血圧、心臓病、脳血管障害、腎臓病を有する方がいらっしゃる場合は用心してください。

 生活環境因子としては、食習慣の問題、運動、ストレスなどがあります。御家族(食生活を共同にする人)が高血圧の場合は、食事内容、特に食塩摂取量と動物性脂肪摂取量を調べてみる必要があるとされています。日本高血圧学会によれば生活環境の改善を以下のように勧めています。


A. 食事療法

(1)食塩制限   1日6g未満
(2) 野菜・果物を十分に摂る
(3) 肉類(牛肉、豚肉)に含まれる飽和脂肪酸の制限
     肉類の脂肪分を除く
(4)アルコールの制限
 1日分の合計  ビールなら700ml.以内
         ワインなら240ml.以内
         ウィスキーなら50ml.以内
(5)禁煙

注意  
・野菜、果物の積極的摂取は、重篤な腎障害がある方は
 高カリウム血症をきたす可能性があるので推奨されません。
・果物の積極的摂取は、高カロリーとなりますので、糖尿病の方には推奨されません。


B. 運動療法など

(1)心血管病のない高血圧症の方は、有酸素運動を毎日30分以上定期的に行う
(2) 適正体重の維持  BMI25を越えない

   BMI=体重(kg)/身長(m)×身長(m)

  肥満で高血圧の方は、体重を5kg.落とすだけで血圧は下がります。


高血圧予防の代表的なものは塩分を控えることです。これは塩分(ナトリウム/Na+)を摂り過ぎますと、血液中の塩分濃度が上がり、細胞組織の活動が低下し水分で薄めようとします。この水分を腎臓が血液中に送り出すことにより、血液の全体重が増加し血管に大きい圧力がかかり、血圧が上昇するわけです。
 ― 塩分と高血圧の関係 ―
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●血液循環の乱れで生じる高血圧

 高血圧症は血圧測定によりはじめて診断のつく病気ですので、血圧計や聴診器のなかった古代では、なかった病気ともいえます。ただし、病名がなかっただけで、体の症状や脈拍の状態から高血圧症の症状を見極め、外の病名を付けて治療は行われてきました。東洋医学においても高血圧による様々な症状は、血液循環の乱れによって生じるということは理解していました。東洋医学において血液循環に関連している臓腑は主に心、肝、脾であるとしています。「心は血を主る」とされていますが、大きくは血流に対して動力を提供しているだけと考えられています。また、「脾は統血を主る」とされ、血液が血管から漏れないことを主たる作用としています。
肝の主たる働きは「蔵血」で血液循環コントロールしており、また、「疏泄(そせつ)」という働きを持っています。この「疏」とはバラバラにする、引き離すという意があり、「泄」とは処理し排泄するという意がありますので、疏泄とは気と血を上手に引き離し、血液の流れをスムーズにし、気の力で血液を全身に巡らせるということになります。

 血液は気(体のエネルギー)の力によって動き、気は血の栄養で力を得ることができると考えており、気血は密接な関係にあります。ただ、それだけに気と血がうっ積することもあり、そうすると血流が悪くなりますので、肝の疏泄により気と血が、それぞれの働きを十分に行えるようにするということです。

 このように、東洋医学では高血圧の原因は、主に肝の働きの乱れにあると考えています。肝の働きの乱れには、肝火上炎(かんかじょうえん)と肝陽上亢(かんようじょうこう)の二種類が大きくあります。また、高血圧の原因として、気の流れるルートである経脈を塞ぐことにより血流の乱れが生じるとした、痰湿中阻(たんしつちゅうそ)という種類があります。主にこの三つのタイプから生じるさまざまな症状が、現代医学でいう高血圧症の症状と一致してきます。

以下にこの3つのタイプを簡単に述べていきます。


1. 肝火上炎(かんかじょうえん)
 ストレスやイライラが続いたり、大きな怒りがあると、そういった精神面に相対しているとされる肝の働きが乱れ、肝の気(エネルギー)がうっ結して火と化します。肝の気は強い力がありますので、うっしますと熱を持ちます。その熱がさらに摩擦され、乾いた板に木片をこすり摩擦熱で火を熾すように火に変じるわけです。これを肝火上炎と呼んでいます。火は上に昇る性質があり、脳に炎上し顔や目が赤くなり、頭痛、めまいが生じます。また、肝火が急激に上に昇るため血圧が高くなるわけです。肝火の熱エネルギーにより、人体の水分が蒸発することにより便秘にもなるとされています。

2. 肝陽上亢(かんようじょうこう)
東洋医学ではどの臓腑にも陰と陽の力が備わっているとしています。陰は栄養源で陽はエネルギー源であり、陰と陽の力が互いに拮抗しバランスがとれていると正常であるとしています。したがって肝陽上亢とは肝の陰が不足し、肝の陽が上昇することを抑えきれず、肝陽がフワフワと上へ昇ってき、脳へと昇り、そこで膨らんでしまってしまうことです。また、肝陰の大本は腎陰であり、肝は腎の陰の力を取り上げることにより力を保っているとされていますので、肝陰不足の元には腎陰不足があることになります。
 肝火上炎が長期に渡りますと肝火が肝や腎の陰を焼きつくすことにより、肝陰不足となり肝陽上亢へと変わってしまうこともあります。
 このように肝陽上亢は陰の力不足が原因で上昇する性質を持っている陽のエネルギーを抑えきれず、肝陽が上昇し頭(脳)へ達することにより頭の陽気が増え過ぎ行き場を失ったことによる高血圧ですので、頭痛、めまい、動悸、耳鳴などを伴ったり、腎陰の不足による腰痛や膝がだるくなるなどの症状を伴うこともあります。

3. 痰湿中阻(たんしつちゅうそ)
 痰とは体液や胃や胆の消化酵素などが変化し、病理的産物となったもので液体で、粘稠性の物を指し、例としては風邪をひいた時に生じる痰があります。また、東洋医学では体液などが病的に作用する場合、それを湿と呼んでいます。この痰湿は気の流れるルートである経脈や血管を塞ぎます。痰湿で塞がられると圧力が上がり、高血圧となるわけです。例えば、ホースにガムなどが付着し塞いでいるところに水を流すと塞がれているところで水の流れが悪くなり、水圧が上昇することを考えて頂くと分かりやすいかもしれません。
 痰質による高血圧では熱はなく、つかえた感じで頭が重い、胸がムカムカする、食欲不振、体が重くむくみがあるなどの症状を伴います。
 この痰は湿が変化したもので、湿は脾の働きが悪くなると生じます。これは脾には、飲食物を消化し栄養源となったものを全身に運ぶ作用があるとしているからで、この運ぶ作用が低下しますとドロドロとした栄養源が停滞し、停滞することにより栄養源が人体に悪いものに変化し、湿となるということです。新鮮な牛乳も放置しておくと腐ることと同じです。

― 痰湿中阻による高血圧の模式図 ―


 高血圧に対する鍼灸治療は、基本的には高血圧が上述した3タイプのうちどれにあたるかを弁別し、それぞれのタイプにあった治療を施していくことになります。
 以下に簡単に述べていきます。

1. 肝火上炎(かんかじょうえん)
 勢いのある肝火の力を削ぎ落とすことを主とし、肝火で傷ついた肝陰や腎陰を補うことを加えます。足厥陰肝経(あしけついんかんけい)の経穴(ツボ)のうち、肝火を瀉することのできる経穴を選択し、鍼を刺し肝火の勢いを抑えるような鍼の操作をします。これを瀉法(しゃほう)と呼んでいます。また、足厥陰肝経と足少陰腎経(あししょういんじんけい)の経穴から肝陰、腎陰を補うことのできる経穴を選択し、鍼を刺し、肝陰、腎陰の力を補うような鍼の操作をします。これを補法(ほほう)と呼んでいます。

2. 肝陽上亢(かんようじょうこう)
 この場合は肝陰の不足により肝陽が上がったものなので、肝火上炎のように肝陽の力を抑えるのではなく、不足している肝陰を補うことにより自然と肝陽が下がり元の場所に収まることを主とします。また、肝陰の大本は腎陰ですので、肝陰も補いますが、主には腎陰を補えば自然と肝陰も補われます。従って使用する経穴(ツボ)は、足少陰腎経と足厥陰肝経から、腎陰、肝陰を補うことのできる経穴を選択し、補法を施すことになります。

3. 痰湿中阻(たんしつちゅうそ)
 経脈や血管など気や血の流れを滞らせる元である痰を取り除くことが基本的な治療となります。痰は湿の化生したものなので、この湿を乾燥させる(化湿)が必要となります。この湿は脾の体の栄養源を運ぶ力が低下したことにより生じますので、脾の力を強めることを主とします。足太陰脾経(あしたんいんひけい)や脾とのかかわりが深く湿を取り除く作用のある足陽明胃経(あしようめいいけい)から、脾の働きを強くする経穴や湿を化することのできる経穴を選択し、鍼を刺し湿を化するような操作をします。

 上述した高血圧の鍼治療は、高血圧をその原因から分類し、原因を改善することにより高血圧を改善する治療法です。それら以外に鍼で血圧を下げる方法に人迎洞刺(じんけいとうし)という方法があります。これは、首の真ん中辺りに人迎という経穴(ツボ)があり、そこに鍼を刺しそのまま10分程度置いておくという方法です。1〜3のどのタイプの高血圧に有効な方法で、20〜30くらい下がります。鍼灸師の間で一般的に「洞刺」と呼ばれ、非常に有名な治療法の一つです。このように鍼治療は高血圧症に有効な治療法ですので、参考にしていただければと思います。
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